部下をやる気にさせるたった一つのスキルとは?

前回は、マネジメントの本質が「統制(コントロール)」にあり、管理を強めるほど構造的に部下の自発性が奪われてしまうというジレンマをお伝えしました。

では、自発的に動く部下や職場をつくるには、一体どうすればいいのでしょうか。そのヒントとなる、一つの物語から始めましょう。

「義務感」の厨房から「理想を追う」厨房へ

長い航海に出た大型船の奥深く、薄暗い厨房で働く調理チームを想像してみてください。

ここで働く調理員の任務は、毎日決まった時間に、献立計画の通り、分量通りに船員たちの食事を作り続けることです。

限られた設備、徹底した衛生管理、厳しいルール……。マネジメントが機能しており、計画通りに毎食、安定的に食事が提供され、その任務はきちんと果たされています。

しかし、そこに「ワクワク」や「自発性」はありません。

狭い空間で「最低限のことだけをしていればいい」という冷めた空気が支配し、少しでも遅刻をした者には「ルールを守れ」と厳しい統制の言葉が飛び交っています。

当然ながら、船員チームは用意された料理を黙々と食べるのみで、感謝の言葉が出ることもありません。マネジメントは完璧でも、職場の空気は悪く、調理員自らが考え行動する状態ではなかったのです。

そんなある日、新しくやってきたある管理職が調理チーム全員を甲板へ連れ出しました。

光の眩しさで目を細める調理員たちの先には、荒波に立ち向かい、汗水垂らして働く船員たちの姿がありました。

「この船は何を運んでいると思う?」

新たな管理職は調理員たちにそう問いかけました。

調理員たちは、この船がさまざまな物資——たとえば、家族の朝の食卓を笑顔にする、”あの食パン”の原料となる小麦——を運んでいることを思い出しました。

そして、調理員の作る食事こそが、運搬仕事を担う船員の活力源なのだと気づいたのです。

その上で、管理職はこう語りかけました。

「ただ食事を作るのではなく、世界一、船員たちを元気にする厨房を目指さないか?」

その日から、チームの空気が一変します。

調理メンバーは限られた食材で「最高の一皿」を作る研究を始め、動線を工夫して作業効率を高め、食堂をピカピカに磨き上げました。二度と遅れる者が出ないよう自発的に声を掛け合う仕組みも作りあげたのです。

「決められた作業」だった毎日の調理が、「理想の未来へ向かうための一歩」へと変わりました。言い換えれば、義務感の支配するチームから、理想の未来をともに追うチームへと、変わったのです。

マネジメントは「継続」、リーダーシップは「変革」

薄暗い厨房で淡々と作業していたチームを、自発的な組織へと昇華させたもの、それこそが「リーダーシップ」です。

リーダーシップ論の大家であるジョン・コッター教授は、その論文“What Leaders Really Do”の冒頭でこう述べています。

「リーダーシップとマネジメントは違う。しかし、その理由は大方の人が考えるものではない」

コッター教授は、マネジメントとは、既存のシステムを運営し続けるためのものであり、リーダーシップとは、より良き未来を創るために、組織に変革をもたらすものと説きます。

例えるなら、マネジメントとは、過去から現在へ伸びる線路の上を、機関車が脱線しないよう正しく走らせ続ける行為です。100年続く老舗蕎麦屋が、今日も伝統の味を守って店を滞りなく回すスキルと言えます。

一方、リーダーシップとは、機関車が真っ直ぐ進もうとする惰性を振り切り、見たこともない未来へと舵を切る行為です。老舗蕎麦屋で突然「冷やし中華を始めるぞ!」と周囲を説得し、「総合麺屋」へと変革していくようなものです。

元来、人も組織も変化を嫌い、リスクや不安を遠ざけようとします。その中で周りを説得し、困難を乗り越えて変化を起こすには、マネジメント(継続)とは全く異なる思考と行動体系、つまり「リーダーシップ(変革)」が必要不可欠なのです。

リーダーシップは後天的に習得できるスキルである

コッター教授は、マネジメントを「ワクワクするものでも華やかなものでもない」と表現した直後、こう続けています。

「しかし、リーダーシップは違う。壮大なビジョンを実現するためには、エネルギーを爆発させる必要がある。

機関車の軌道を変えるには、一人ひとりのエネルギーを爆発させなければなりません。

マネジメントは「動機」や「自発性」といった不安定な要素を排除してシステムを回しますが、リーダーシップは人間のエネルギーという極めて不安定なものを「燃料」として動かします。

つまり、メンバーの内なる情熱を解き放ち、自発的に動くように仕向けていくことこそが、リーダーシップの本質であり、管理職の役割なのです。

「自分にはカリスマ性がない」「部下を惹きつける天性の才能がない」と悩む必要はありません。

コッター教授は「リーダーシップは神秘でも謎でもない。カリスマ性のような資質は関係なく、選ばれし者だけの領域でもない」と断言しています。

リーダーシップは、天与の「絶対音感」や「ピカソの絵画の才能」のような限られた人の才能や資質ではありません。「人が自発的に動くように仕向ける技術」という、誰もが後天的に習得できる「スキル」なのです。

このように、「部下の自発性が育たない」と悩んだとき、管理(マネジメント)を強めても解決しません。必要なのは、管理職が「統制」の枠組みから一歩を踏み出し、目指すべき理想(ビジョン)を示してチームのエネルギーに火をつける——すなわち、「リーダーシップというスキル」を発揮することなのです。

サービス一覧を見る

コラム著者

児玉 教仁(こだま のりひと)

グローバルアストロラインズ株式会社 代表取締役

児玉 教仁(こだま のりひと)

ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー。
米国ウィリアム・アンド・メアリー大学卒業後、総合商社を経てハーバード経営大学院MBAを取得。米国子会社の代表取締役などを歴任後、2011年に同社を設立。グローバルリーダー育成や組織開発のプロフェッショナルとして、これまでに1万人以上の受講生に向き合い、企業変革を支援している。

お気軽にご相談・
お問い合わせください